翌週に入ると、右頬と右手の絆創膏は取れ、ガラスの破片でかすった傷はすっかり治った。かさぶたもはがせて、ほとんど元通りだ。



左腕の包帯は、まだ外せていないけれど。


体育の授業くらいなら運動してもいいと、葉上先生に許可をもらえたくらい、良くなってきている。これ以上、左腕に“傷”が残らなくてよかった。




そんな、のどかな昼下がり。

昼休み中の現在、わたしは中庭に設置されているベンチで、咲間さんと二人でお昼ご飯を食べていた。


おばあちゃんが作ってくれたお弁当を広げ、咲間さんとお喋りをしながら、おにぎりを頬張る。



「あのさ、矢崎さん!」


「はい?」



妙に気合いの入った口調で呼ばれた。今までののどかさはどこへやら。

すっかりリラックスしてのんびりしていたわたしもつられて、肩に力を入れ身構えてしまう。


突然、どうしたのかな。



「前々から思ってたんだけど……」



物々しい前置きに、つい小心者レーダーが起動してしまう。


こ、この空気……もしかして。

一緒にランチするの迷惑だった?


話の続きを、ドキドキしながら待つ。



「な、なに?」


「あたし、矢崎さんのこと名前で呼びたい」


「……えっ?」



想定していなかった内容に、思わず気の抜けた一音がこぼれた。


心の中に充満していた不安が、一気にかき消される。心内では思い切り安堵して胸を撫でおろしていた。



「ダメ、かな?」



わたしの呆けた顔を覗き込むように、咲間さんは首をかしげる。


我に返って、ブンブン首を横に振った。



「ダメじゃない。ダメじゃないよ!」


大事なことなので、二回言いました。