四月上旬。
また、幾度目かの春が来た。
窓から、太陽の光がこぼれた。
カーテンのおかげで少しは光の量を抑えられているけれど、寝起きのわたしには少量でも十分眩しい。眩しすぎる。
その光はまるで猛毒のようで、あるいはとんだ刺激物のようで。
いかに視界に浴びないか、起動していない意識の水面下で考えながら、ごろんと寝返りを打って日差しを拒んだ。
『莉子(リコ)』
名前を呼ばれた気がして、返事の代わりに「んんー」と唸りを上げる。
誰?わたしを呼ぶのは。
まだ寝かせてよ。
『もう朝よ。起きなさい』
この声は……お母さん?
え?どうして?
うまく働かない思考回路を働かせてみる。
答えは案外早く出た。
……あぁ、そうか。
これは、夢なんだ。
そうに違いない。
だから、お母さんの声が聞こえるんだ。
なんていい夢なんだろう。
心地よくて、都合いい。
わたしのための、わたしだけの夢。
夢だってわかってしまったからだろうか。
瞼がさらに重たく、眼を覆い隠す。
これじゃあ起きられないよ。
ううん、本当は、起きたくないの。
だって、起きたら、この居心地よさが消えてしまう。
寂しい思いをしなくちゃいけないなら、夢から覚めたくない。