じゃあ、なんで、環くんと目が合うだけで、こんなにも惹かれるんだろう。
なんで……。
「環くんって……お兄さんとか、いる?」
環くんの目が、丸くなる。珍しく動揺している。
「……環、くん?」
「どうして?」
環くんは目をそらしながら、質問で返された。心なしか気まずそうで、わたしにも伝染してしまう。
予想外の反応に、「あ、えっと、その……」と口ごもってしまう。
そ、そうだよね。
いきなりそんなこと訊かれたら、そうなるよね。困っちゃうよね。わたしのバカ。
「た、ただ、ちょっと、気になって」
二人が似ているのは、“あのときの少年”が環くんのお兄さんだからなのかもしれない。
そんな適当かつ都合のいい推測が浮かんで、つい訊いてしまった。そうだったらいいな、って。
でも、訊かれたくないことだったのかもしれない。環くんにしては珍しい反応だったから、きっとそうなんだ。どうしよう。
環くんに、嫌な思いさせちゃった。
一番笑顔になってもらいたい人なのに。
こういうときって、どうしたらいいんだろう。
どうするのが正解?
こっちに来てから人間関係が点でダメになってしまって、対処の仕方もわからなくなってしまった。何を言ったら、どんな態度を取ったら、気まずさも苦味も綺麗さっぱり片付けられるんだろう。昔のわたしはどうしていたっけ。
悶々と悩んでいると、ため息を漏らされた。短く吐き出すだけの、浅い息。
「いないよ」
淡泊に返答した。
取り繕ったような声音だと気づいても、安心した。
そっか、いないんだ。
“あのときの少年”が環くんのお兄さんだなんて、考えすぎか。そりゃそうだよね。世間はそう狭くない。
やっぱり、他人の空似?
そうこうしているうちに、一時間目開始のチャイムが鳴ってしまった。
「答えてくれてありがとう」
「いーえ。それより、早く教室行かないと」
「そっ、そうだね!」
まだ顔が赤く染まってる。
環くんのそばにいるだけで、呼吸もうまくできない。焦がれて焦がれて、そのまま焦げついて火傷してしまいそう。
懐かしくて愛おしい、この気持ちって、もしかして――。