教室内には、他に誰もいなかった。電気も消えており、物音ひとつしない。


環くんで最後だったのかな。



ずっと不思議に思っていた。


どうして、環くんはいつも一人でいるのか。


仲良くなって、さらに不思議に思った。



単純に一人が好きだからだと勝手に推測していたけど、本当にそうなのだろうか。


時折、環くんの儚げな表情を一見すると、特別な理由が潜んでいる気がしてならない。



考えすぎならいいのだけれど。

もし本当に、環くんが何かに苦しんでいたら、今度はわたしが環くんを助けたい。わたしが環くんに助けられたように。



「そういえば」


「なに?」


「友達、できたんだね」



環くんは温和な表情で、わたしを見つめた。


クラスメイトとして喜んでくれているのか、それとも”皆瀬環”として想ってくれているのか、それとも……。

わたしには、判断つけられなかった。



「うん、環くんのおかげだよ」



右手で左手をぎゅうっと包む。温もりは感じ取れないのに、温かいと感じるのはなぜだろうね。


もう左腕のことで傷ついたりしない。バケモノだと蔑まれても、そんなわたしがわたしだから。



「俺は何もしてないよ」


「そんなこと……!」


「莉子ちゃんが頑張ったからだよ」



わたしだけの力じゃないよ。

そう反論する寸前、皆瀬くんの大きな手がポン、とわたしの頭を撫でた。


触れたところから熱くなる。じわりじわり、帯びていった熱が温度を上げて、私の奥深くまで侵食していく。このまま心の臓にまで届いてしまいそう。


喉まで出かかっていた言葉は、喉をするする滑り落ちていった。喉の奥までいってしまえばもう、“声”にはならない。



胸が、苦しい。

うるさいくらい飛び跳ねる鼓動が、環くんに聞こえていたらどうしよう。鼓動ひとつひとつが、身体をたぎらせては、大きく反響する。



「た、環くん」


「ん?」



環くんと“あのときの少年”が似てるから?


ときどき二人をリンクさせて見てるから?



だから、心臓が忙しなく高鳴るの?