戻ってきてよかった。

踏み出してよかった。


枯れ果てるまで泣いて、よかった。



雨が降ったあと、必ず空には虹がかかるように、素敵なことが待っていた。



「それと、遅くなっちゃったけど……昨日は守ってくれてありがとう」



咲間さんは、頭を下げ続けたまま。



「顔を上げて、咲間さん」



ためらいがちに声をかけると、咲間さんはおずおずと頭を上げた。


ありがとうは、こっちのセリフだよ。



「わたしのほうこそ、ありがとう」


「な、んで矢崎さんが……?」


「さっきクラスのみんなに訴えかけてくれてたよね。本当に嬉しかった」



咲間さんも、怖かったでしょう?



みんなと違うことをするのは、勇気がいる。周りに合わせていれば楽だし、被害はない。


それでも、わたしのために声を張って、行動を起こしてくれた。咲間さんにとっての正義を掲げて、わたしを迎えてくれた。


それは、咲間さんなりの頑張り方で。
わたしに届いたのは、その頑張りが報われてる証拠だ。



ありがとう、咲間さん。




「あの、咲間さん」



グッ、と拳を握る。


教室に入るよりも緊張してしまう。急にどぎまぎし出したわたしを、咲間さんは変に思っていないだろうか。思っていたらどうしよう。



「もしよければ友達になってくれませんか?」



最後のほう声が裏返ったし、早口になっちゃったし、いろいろと台無しになっちゃった気しかしない。


せめてわたしの願いだけは届いていたらいいな。
わたし、咲間さんと、友達になりたい。


一瞬驚く素振りを見せた咲間さんは、ゆっくりと口元をゆるめていった。



「もちろん!あたしも、矢崎さんと友達になりたいなって思ってたんだ」



よろしくね、と左手を差し出される。


……左手、か。

わたしは躊躇なく、感覚のない左手を咲間さんの手に重ねた。



「うん、よろしく!」