雨粒を吸い込んで柔らかくなった地面を、他愛ない話をしながらたどっていくと、瞬く間に校舎前に着いた。



ちょうどよくチャイムが鳴る。

おそらく昼休みだ。



「俺も一緒に教室行こうか?」


「ううん、一人で行くよ」



環くんに甘えてばかりいられない。



一人で立ち向かうことに、意味があると思うから。

独りじゃない。わたしには、味方がいるって知ってる。


ちゃんと自分の足で進まなくちゃ。強く在れるために。



わたしは深呼吸をしてから、校舎に入った。



「じゃあ、俺は保健室に寄っていくから」


「うん、またね」



上履きを履いたあと、環くんとは反対の方向に廊下を歩いていく。


一人になった途端、足裏から震え出す。


大丈夫。
大丈夫だ。


元気が出る呪文を心の中で唱える。

大丈夫。ダイジョーブ。だいじょうぶ。徐々にゲシュタルト崩壊していく。呪文が単なる羅列に劣化していく。これじゃあダメだ。


やや丸まった弱気な背中に、



「莉子ちゃん!」



さっき別れたばかりの環くんの声が投げかけられた。


反射的に振り向く。長い前髪がふわりと揺れて、視界に環くんの顔が鮮やかに刻まれる。



「頑張って」



たった一言。

たった数文字の、エール。



『頑張れよ』



葉上先生の言葉と、重なる。


その言葉には、一体どれほどの感情が詰まっているんだろう。

そのエールには、一体どれだけの力が込められているんだろう。



そうだ。頑張れ、わたし。
頑張るんだ、わたし!



わたしは大きく頷いて、再び歩き出した。


足はもう震えてはいなかった。