大粒の雫が滴る前に右手の甲で拭って、代わりに笑みをこぼす。


皆瀬くんと出会えてよかった。



「あのさ」


「なに?」


「そろそろ『皆瀬くん』呼びやめない?」


「え?」



わたしよりも、なぜか皆瀬くんのほうが驚いた顔をしていた。


皆瀬くんは、わたしから手を放して、口元に当てた。



「俺、なに言ってんだ……?」



その小さな小さな呟きは、花弁の擦れる音に混じって、わたしは聞き取ることができなかった。



「皆瀬くん、どうしたの?」



……あっ、この呼び方をやめるんだっけ。

じゃあ「皆瀬くん」じゃなくて。



「た、環、くん?」



初めて男の子を名前で呼ぶから、緊張する。


たぶん……いや絶対に赤くなっているであろう顔を、前髪で隠そうとした。


だけど、朗らかな一笑が頭上に落ちてきて、視線を上げる。


「うん」

環くんは微笑んで、たった一言ささやいた。



また、初恋の熱を帯びた気持ちが姿を現し、胸を甘く締め付けた。


八年前は再会すらできず、熱が灯ることもなかったのに、どうして今更。懐かしい感覚すぎて、戸惑いが膨れ上がる。



「わ、わたしのことも、ぜひな、な、名前で……!」



盛大に噛んでしまった。

恥ずかしい!



「莉子ちゃん」



……ずるい。

そんな、さらっと呼ぶなんて。


でも、仲良くなれたみたいで、嬉しいな。



臆病な心にも、ひだまりが生まれる。

暖かくて、温かい。


きっと、これを「勇気」と呼ぶんだろう。