引っかかりを覚えて鎮まるわたしに、葉上先生は冷静に話を続けた。
『莉子ちゃんがこうやって生きているのは、ご両親が守ってくれていたからなんだよ』
『お母さんと、お父さんが?』
『ご両親は雪の中で、莉子ちゃんを抱きしめながら亡くなっていたんだ』
当たり前の幸せが壊れてもなお、お母さんとお父さんは自分よりわたしを想ってくれた。
嬉しいけどね。
お母さんとお父さんも、生きててほしかった。
どうして、お母さんとお父さんも助からなかったの。
助かったのがわたし一人だけなんて、ひどすぎる。
『でも、莉子ちゃんも危険な状態だったんだ』
『三日も眠り続けていたからですか?』
『それもあるが……』
葉上先生の視線が、わたしの左腕に移される。
やっぱり左腕のどこかがおかしいのかな。
『莉子ちゃんを雪の中から発見して助けたとき、莉子ちゃんの左腕は重傷を負っていて、全く動かない状態だったんだ』
耳を疑う話だった。
全く動かない?
今、違和感はあるけれど、普通に動かせるのに。
『それじゃあ、どうして今動くんですか?』
『手術をしたんだ』
手術?
それって、どんな?
『ぎりぎりまで迷ったよ。出血が多かったこともあって、本人が目覚めるのを待っていたら死んでしまう状況で、莉子ちゃんの意思も聞けなかったから』
『何に迷っていたんですか?』
『左腕を切断して義手にするか、最先端の医療技術で左腕を再起させるか』
義手か、再起。
今更怖がりながら、左腕に目を落とす。
これは、たぶん義手じゃない。
わたしの腕だ。
ということは……。
『後者の再起させるほうの手術を、行ったんですか?』
葉上先生は黙って頷いた。