上半身を起こそうとしたが、力が入らなくて起き上がれない。三日間も眠っていて、体力がないせいだろう。
それに、左側に違和感を感じる。特に左腕。まるで血が通っていないよう。
おかしいな。
自分の体じゃないみたいだ。
葉上先生は『そのままでいいよ』と気遣って、わたしと同じ目線になるようゆるく屈んだ。
『莉子ちゃん』
『は、はい……』
『何があったか、覚えてる?』
その問いかけを引き金に、勝手に記憶が遡る。
寒々しい温度。激しい吹雪。重厚な音。揺れる車。お母さんとお父さんの叫び。
それらが、脳内をかき乱した。
心臓が、ドクドク、うめき出す。何かを伝えたがってる気がした。
『覚えてるけど……何も、わからないです』
正直に返答した。
気がついたときには、真っ白だった周囲が真っ暗になっていたことは覚えている。
何が起こったんだろう。
『あっ!お母さんとお父さんなら、何があったか覚えてるかもしれません』
付け足して言うと、葉上先生だけでなく、おばあちゃんとおじいちゃんも表情を曇らせた。
みんな、どうしたの?
なんでそんな顔をするの?
『そういえば、』
訊くのが、怖くなった。
『お母さんとお父さんは、どこ?』
空気が張り詰めて、暗くなる。
つい噛みしめた下唇から、ピリッとした痛みを覚える。鉄の味が舌に溶け込んでいった。
……まさか。
いや、違う。
違うよね?
みんなが黙り込む意味に、本当は心のどこかで気づいていた。
でも、気づいていないフリをした。
気づきたく、なかった。