『嫌な天気だな』


『事故起こさないように気をつけてね』



お父さんとお母さんの憂鬱な喋り声を聞き流しながら、うしろの座席で窓の奥に目を凝らした。



ここまですごい吹雪、初めて見た。どこを見ても、白、白、白。真っ白けだ。わたしの住んでるところじゃめったに雪は降らないから、物珍しさに呆けてしまう。


怖い、というより、ただただ圧倒されていた。



ふと、ゴオオオオという音が鼓膜に届いた。

やけに重厚感のある音に、動揺せざるを得ない。


窓ガラスがカタカタ揺さぶられる。



この音、何……?

どこから聞こえてくるの?


幻聴じゃない、よね?



かじかんだ指が、こ刻めに震えだす。形容し難いくすんだ感情が、身体中をめぐる。


それらを上回るくらいの胸騒ぎがした。



辺りが見えにくい、窓の外。

強い風によって、乱れ舞う雪。細やかな粉雪が、山の緑を侵食していく。


その吹雪の奥からだんだんと不穏な音が近づいてきていた。



何なの?

これは何の音なの?



――刹那、車が大きく揺れた。



『!?』


突然のことに、頭が真っ白になる。

体がまず上下に揺れて、少し浮く。



『莉子っ!!』



お母さんとお父さんが、必死な形相で叫んだ。
それがわたしの名前かも判断つかないくらい、どでかくかすれた、叫び。



わたしは無我夢中になって、二人のほうへ左腕を力いっぱい伸ばした。


窓は既に雪で埋まっていて、景色も何も見えなくなっていた。



一秒も経たないうちに、また車がグラッと傾いた。下へ下へと引きずり込まれていく。


その拍子に、頭を窓にぶつけてしまった。ゴツンッと窓ガラスが割れるほど大きな音がした。



何が起こっているのかわからないまま、後頭部に蠢く激痛に気づかないまま、わたしの意識は途切れた。




ただ、


『莉子……っ!』


幾度もわたしの名前を呼ぶ、お母さんとお父さんの苦しそうな声だけが耳に残っている。