「今ここにいるのは、俺と矢崎さんの二人だけだ」
皆瀬くんの右手が、わたしの左手を先ほどより強くくるんだ。
わたしより大きな手。
いとも簡単にわたしの小さな手のひらを隠せてしまう。
青い空と桜の木を背景に、二人の視線が真っ直ぐ絡み合った。
青と薄紅色のコントラストよりも、皆瀬くんのほうがずっと綺麗で、淡い。
「だから、大丈夫だよ」
そんな優しいことを、優しく言われたら。
泣いてしまう。
今までこらえてきたのに。
「怖がらなくていい」
「……っ」
「泣いてもいいんだよ」
「……泣いて、いいの?」
「ああ」
本当は、限界だった。
今までずっと我慢してきた涙が、ぶわっと一気にあふれて。
大粒の涙がぽろっ、とあっけなくこぼれ落ち、下まつ毛に乗っかった。
視界がぼやけて、桜さえまともに見えない。
絶え間なく、涙が輪郭をなぞって流れていく。拭っても拭っても追いつかない。
わたしの震える背中を、皆瀬くんはゆっくり撫でてくれた。
「俺にしてほしいこと、ある?」
もう十分だよ。
って、余裕ぶろうとしたけど。
「わたしの……」
気づいたら、甘えていた。
「わたしの話を、聞いてくれる?」
わたしの悩みも、恐れも、情けないところも全部。
誰かに聞いてほしかった。
……ううん、違うね。そうじゃない。
皆瀬くんに、聞いてほしいの。
自分の内側にため込んで、無理するのはやめる。
「うん、聞くよ」
桜吹雪に塗れたその笑みに、触れてもいないのに温もりがわかった。
さらに涙腺がゆるんで、表情が不格好に歪んでしまう。
どこから話せばいいだろう。
きっと皆瀬くんなら、どんな話でも真面目に聞いてくれる。
涙ぐみながら、拙く、それでいて確かに。
雪色に荒む過去を語り始めた。
泣きすぎて腫れた両目には、青も薄紅も食らいつくす、残酷なほど透明な純白が否応なく支配していた。
白は、どの色よりも嫌いな色。
あの日から嫌いになった色。