ポカンとしてるわたしに、皆瀬くんは笑みを浮かべる。
不敵で、素敵な笑み。
さ、サボるって……。
どういうこと?
よく理解できていないわたしの左手を、皆瀬くんの右手が掴んだ。
「行こ!」
「え?えええっ!?」
走り出した皆瀬くんに引っ張られるがまま、歩いてきたばかりの廊下を走る。
今はあまり周りの視線が気にならないのは、なぜだろう。
皆瀬くんと一緒だから?
もしそうなら、皆瀬くんは最強だ。
学校を抜け出して、昨日雨が降ってびちょびちょにぬかるんだ道を駆けていく。
不思議だな。
さっきまでびくともしなかった足が、一歩また一歩、前に進んでる。ちゃんと進めてる。
金切り声を上げていた弱虫な気持ちが、しぼんで、溶けていくのがわかる。
ぱしゃっ、と水たまりの上を跳ねた。
足元に飛び散った泥水も、今はどうだっていい。
雨上がりの空の下なら、何をしても許される気がした。
つながれた手を、ぎゅっと握り返す。
楽しそうな皆瀬くんの背中が眩しくて、目尻を細めた。
ねぇ、皆瀬くん。
一体、どんな魔法をかけたの?
どうして、あの場から連れ出してくれたの?
学校から少し離れた場所で、皆瀬くんは足を止めた。
「ここって……」
“あのときの少年”と会った公園だ。
大きな大きな桜の木が、ゆらゆら、わたしたちを出迎えているように揺れている。
「ここ、俺のお気に入りの場所なんだ」
皆瀬くんは乱れた呼吸を整えながら、桜の木を眺めた。
この公園は、皆瀬くんにとっても特別な場所だったんだ。
共通点を見つけて、嬉しくなる。