教室内が騒がしくなっていく。昨日も、わたしが訪れる前まで、こんなに賑やかだったのかな。
それに比例して、わたしの体温が一度ずつ下がっていってる気分だった。
扉を開けようとした手を、力なく下ろした。
『頑張れよ』
昨日の葉上先生のエールが、脳裏を過る。過っては通過するだけで、背中を押されることはない。
無理だ。
頑張れない。
探しても探しても、この教室に入れる勇気が、見当たらない。
この一枚の扉が果てしなく高くて分厚い壁のようで、わたしは立ちすくむことしかできなかった。
「矢崎さん?」
背後から声をかけられ、たどたどしく振り返る。
「……み、なせくん」
「どうした?入らないのか?」
どう応えたらいいかわからず、俯いた。
いつもこうだ。俯いてばかり。
こんな自分を変えたいのに、何もできない。
入りたいけど、入れない。
そんなのただの言い訳に過ぎない。
「あの噂、本当だったんだな」
「気味悪ぃよな」
教室からうるさいくらい飛び交っている毒のある会話が、扉を挟んでいてもはっきり届いた。
奥歯を噛んだ。上と下の歯をいくら押し合っても、何もはぐらかせない。言い訳することすら、もどかしい。
皆瀬くんは全てを察して、縮こまるわたしに目を向ける。
教室に入らないといけないのに。
踏み出せない。
たった一歩でいい。
だけどその一歩が、難しい。
誰か、頑張り方を、教えて。
「矢崎さん」
皆瀬くんが再度わたしの名を呼んだ。
どこまでも澄んだ声音は、影の帯びた嘲笑いを跳ね除けて、クリアにしてくれる。
ゆらり、と皆瀬くんのほうへ、濡れた瞳をずらした。
「サボっちゃおっか」
「え?」