診察も手当ても終えたのは、午後四時を過ぎたころだった。
それから病院からバスに乗って、家に帰った。一本で帰れるバスを待っていたら、時刻は午後六時を回っていた。
玄関の扉を開けながら「ただいま」と言うと、居間からおばあちゃんが顔を出した。
「おかえり、莉子ちゃん」
「遅くなってごめん」
「いいんじゃよ。先生から連絡あったから」
冬木先生か、琴平先生かな。
連絡してあってよかった。
「夕ご飯の準備できておるよ」
「うん」
もしかして、先に夕ご飯を食べずに、わたしが帰ってくるのを待ってたのかな。だとしたら申し訳ない。
わたしは急いで自分の部屋で制服から部屋着に着替えて、居間へ向かった。
おじいちゃんにも「ただいま」と言うと、「ん」とだけ返ってきた。
「おや、その顔、どうしたんだい?」
おばあちゃんが右頬の絆創膏に気づいた。
そうだ、右頬もケガしてたんだった。左腕にばかり気を取られてて、すっかり忘れてた。
どうやらガラスが割れたことは、先生に説明されなかったらしい。
わたしは絆創膏を貼ってる理由を説明していくにしたがって、おばあちゃんの眉尻が垂れていった。
「大変だったねぇ。大丈夫かい?」
「うん、大丈夫だよ」
おじいちゃんも憂いた表情で、わたしの右頬の絆創膏を見つめていた。
おばあちゃん、おじいちゃん。
心配かけてごめんね。
そう伝えたらもっと悲しい顔をさせてしまうって、わかってる。
だから言わない。
心の中で想っているだけにする。
「ねぇ、おばあちゃん」
「なんだい?」
わたしは夕ご飯を食べる前に、持ってきていたブレザーとシャツをおばあちゃんに渡した。
昼休みの一件で、ブレザーとシャツの袖はボロボロだ。
「ガラスで、左袖が破けちゃったんだ。直してくれない?」
本当は自分で直したいんだけど、裁縫は苦手で……。
家庭科の評価は、いつもよくない。「3」が取れたらいいほうだ。手先が器用な人が羨ましい。
「わかったよ」
おばあちゃんは破けた部分を確認して、目を線にして快く引き受けてくれた。