辛いよ。


この秘密を抱えるのが、辛い。

フツーじゃなくなったのが、辛い。



でも、言えない。言えっこないよ。


だって、葉上先生は、この左腕を治してくれた人だから。

感謝を仇で返すみたいで、口が裂けても「辛い」だなんて明かせなかった。



頷くことも否定することもしないわたしに、葉上先生は左腕の診察をやめて、先ほどまで看護師さんが座っていた椅子に腰掛けた。



「生きていたくないか?」


「っ、」



それは、違う。



「“あのとき”、助からなければよかったと思ってるか?」


「思ってない!」



問いかけに、食い気味に答えた。


直後ハッとして、「……です」と弱々しく付け足した。




“あのとき”――クリスマスイブの日、わたしが助からなかったら、孤独を知らずにすんだだろう。今まで当たり前だった日常を勘違いしたまま、雪の中で眠っていただろう。


そりゃあこっちに来てからいいことないし、生きることもすごく辛い。

朝起きるたびに、バケモノまがいな左腕に馴染めていない自分を嫌悪して、絶望感で胸が潰れそうになる。



だけど……だけどね。

生きていたくないと思ったことは、一度だってないんだ。




「……よかった」


「え?」


「その答えを聞けて、安心した」



いつから葉上先生は、わたしがこの左腕に悩んでいたことに気がついていたんだろう。


いつから葉上先生を不安にさせていたんだろう。



心臓がチクリとひしめいた。



「これからもいろいろと大変なことがあるだろうけどさ」



葉上先生は立ち上がって、わたしの頭を撫でながら微笑んだ。大きな手がすっぽりと頭を包み込む。



「頑張れよ」



曖昧で、それでいて重みのある一言。

心にズシンとのしかかって、焼き付いていく。



「頑張る……」



ポツリとオウム返しして、まつ毛を伏せる。



わたしは、何も頑張ってない。

でも、じゃあ、何を頑張ればいいの?


頑張り方さえ、わからない。