「左手は動くか?」
「はい」
「腕のほうは?」
試しに左腕をぐるぐる回してみる。
大きく輪を描くように回転させ、次は上下に振る。
動く。どこかでつっかえたり、ピクリと傷に反応したりせずに、不自然なくらい自然に動いてしまう。
傷を負っているとは思えない。
「違和感とか、感じないか?」
「はい、大丈夫です」
わたしの返事を聞いてから、葉上先生はもう一度左腕の傷を診た。
「幸い、神経とか大事なところは傷ついてないみたいだな」
傷口は深いけれど、縫合するほどでもないらしい。
あまり大したことがなくて、ほっとした。
「じゃあ、別室で看護師さんに包帯を巻いてもらってください」
最後は先生らしい口調で締めた葉上先生にお礼を告げて、診察室をあとにした。
待合室で数分待ったあと、看護師さんに診察室とは別の部屋に案内された。
そこで看護師さんが左腕の傷が悪化しないように、丁寧に包帯を巻いてくれた。柔らかな生地で包まれていく感触に、むずがゆくなる。
包帯を巻き終え、ブレザーを羽織ると、部屋に葉上先生が入って来た。
「包帯巻いたか?」
「はい」
葉上先生は、部屋を出ていこうとした看護師さんに確認を取り、再び左腕の状態を軽く調べた。
短い沈黙が流れる。
クセのある消毒液の匂いが、嗅覚にねばりついて、離れてはくれない。
「……辛いか?」
「へ?」
思わず間抜けな声が漏れた。
唐突だ。唐突すぎる。質問するなら前もって合図してほしい。
「辛いって、何が、ですか……?」
「この左腕、嫌いか?」
二つ目の質問で、一つ目の質問の意味がわかった。
葉上先生、気づいてたんだ。
わたしが、わたしの左腕が、みんなに気味悪がられたこと。
隠しとおせたと思ってたのにな。