授業が始まって数分後、琴平先生が持ってきてくれたカバンを持って、学校を出た。
制服の破れたところを手で隠しながら、バス停まで歩く。
バス停にたどり着いて、病院行きのバスが来るのを待った。
田舎町だからめったにバスは通らない。本数自体、そんなにないのだ。
だが、タイミングが良かったのか、時刻表によるとあと数分でバスが来るらしい。ラッキーだ。
今日は、いろんなことがあった。
……ありすぎて、感情がごちゃまぜになってる。
まるで、頭上に広がる、曇り空のように。
若干遅れて到着したバスに乗り、一番うしろの座席に座った。固い座り心地は、教室の居心地よりは断然マシだ。
乗客はわたし一人しかいなかった。
動き出したバスの規則的な揺れに身をゆだねながら、窓に頭を寄せる。
「バケモノ、か」
自分の左手を、グーパーグーパー、握ったり開いたり。
さっきまで腕にガラスの破片が刺さってたなんて信じられないくらい、ちゃんと正常に動く。
また握って、感触を確かめた。
どんどんきつく、きつく、握りしめていく。
爪痕が残るくらい握っても、痛くない。ちっとも痛くならない。
仕方がない。
そういうモノなんだ。
手のひらを広げて、爪痕を右の人差し指でなぞった。深すぎる痕は、人差し指の爪の先が埋まるほどだった。
ポツポツ、雨が降り始めた。
窓に雨雫が伝う。
空がわたしの代わりに泣いてくれているみたいで、ほんのわずかに口元をほぐした。
終点の病院に着き、バスを降りた。
病院には定期的に来ている。
来週も来る予定だった。
このバケモノじみた、左腕のために。
病院に入り、診察する順番が来るまで待合室にあるソファに座って待った。