涙声で紡ぐ感謝の気持ちは、思った以上に小さくて。
息を吹きかけただけで、簡単にかき消されてしまいそう。
それでも、皆瀬くんはしっかり受け取ってくれた。
「ならいいんだけど」
皆瀬くんは、何も聞いてこない。
フツーじゃない左腕のことも、わたしの噂のことも、何も。
それが、皆瀬くんの優しさ。
皆瀬くんにとって当たり前だとしても、わたしには特別なんだ。
……ありがとう。
皆瀬くん。
本当に、ありがとう。
わたしは何度も何度も、心の中で「ありがとう」を繰り返した。言っても言っても足りないくらい、嬉しくて、幸せで。
熱を帯びた涙が、こみ上げてきた。
皆瀬くんは右頬だけじゃなく、右手も手当てしてくれた。
その手当てがちょうど終わったとき。
保健室の扉が開いて、琴平先生が戻ってきた。
「あれ?矢崎さん、どうし……」
琴平先生は「どうしたの」と聞き終える前に、わたしの左腕に目を留めた。
察した琴平先生は、皆瀬くんに椅子を代わってもらい、すぐに左腕を診てくれた。
琴平先生も、わたしの秘密を知っている。
だから、わたしの左腕から血が出ていないことにも、驚かないんだ。
「この絆創膏は、自分で?」
「いえ、皆瀬くんが手当てしてくれたんです」
右頬と右手の絆創膏を見つめながら、頬をゆるめる。
「皆瀬が、自分から?」
「はい。そう、ですけど……」
「へえ、珍しい」
珍しい?
面白いものを見たみたいに口角を上げる琴平先生に、わたしは首を傾げた。
皆瀬くんなら、誰にでもしそうなのに。
だって、優しいし。嫌な噂だらけのわたしにも、優しいし。それから、優しいし……。
皆瀬くんは話を聞いていないフリをして、ベッドに腰掛けた。