右頬の線状の傷痕に、消毒液を染み込ませた綿球をポンポン当てられる。


傷の奥までしみて、思わず右目を瞑った。

それでも痛みが最小限なのは、皆瀬くんの手つきが優しいからだ。



「さっきすごい音してたけど、何があったの?」


「サッカーボールが飛んできて、窓が割れちゃって」


「うわあ、悲惨だな。他に怪我しなかった?」


「えっと……」



ドキリとした。

生唾を飲み込む。


先ほどの野次馬の冷ややかな眼差しを思い出し、右手が自然と左腕のガラスの破片へ動く。



「痛っ」


素手でガラスの破片を抜き取ろうとして、逆に手のひらを傷つけてしまった。


右手から、血が流れる。

でも、やっぱり、左腕からは赤色はあふれない。



「矢崎さん」



……怖い。



皆瀬くんにも、バケモノだと思われたらどうしよう。

白い目で睨まれたらどうしよう。


皆瀬くんが優しいからこそ、怖いんだ。


拒まれたときのことを想像したくない。



下を向いて、唇を引き結ぶ。きゅっ、としっかり閉ざしてしまえば、不安も恐怖も外に漏れることはない。内側でじっくりと飲み込めばいいだけ。



「大丈夫?」



黙り込むわたしに降ったのは、予想に反する言葉で。


困惑しながら、顔を上げていく。



そこにあったのは、わたしを気味悪がる表情じゃなく、わたしをただただ心配してる表情だった。



『大丈夫?』だなんて言葉を、さっきは誰もかけてはくれなかった。


わたしを蔑んで、遠ざけるばかりで。

人の温かさを示してくれる人は、事情を知っている先生たち以外、あの場にはいなかった。



「……じゃ、ないよな。左腕、ガラス刺さってるし」


「ううん、だ、大丈夫……」


「本当に?」


「うん。ありがとう、皆瀬くん」