皆瀬くんは今日、欠席じゃなくて、ずっと保健室にいたの?
それに、何気に皆瀬くんと話すの初めてだし。
それにそれに!
今、わたしの名前を呼んでくれたし。
いろいろとびっくりして、まずはどこにびっくりしたらいいかわからない。どう反応したらいいか戸惑う。
「頬、怪我してるな。もしかして、さっきの騒ぎで?」
「あ、は、はい」
「どうして敬語なの」
皆瀬くんが、朗らかに笑う。
ぐちゃぐちゃだった心が凪いで、落ち着いていく。
「同じクラスなんだからタメ口でいいよ」
「は、はい!……あ、えっと……う、うん、わかった」
しどろもどろに返事をするわたしに、皆瀬くんがまた笑った。
なんてことない、ふとした笑顔。
それがわたしにとってどれだけ嬉しいものか、皆瀬くんは知らないのだろう。
「俺でよかったら、手当てしようか?」
え?皆瀬くんが?
迷惑じゃないの?
でも、自分の顔の傷を自分で手当てするのは、結構難しいんだよね。
うーん……と少し悩んで、
「お、お願いします」
お言葉に甘えて、皆瀬くんに頼むことにした。
「また敬語」
「あっ」
「ははっ」
初めての会話とは思えないくらい、自然と話せてる。
この学校に来て、初めてだ。
噂のあるわたしに対して、“普通”に接してくれたクラスメイトは。
皆瀬くんは、優しいなあ。
優しすぎて、また現実逃避してしまいそう。
わたしの心は、あまりにも弱すぎるから。
手当てをするために、わたしと皆瀬くんは向かい合う形で近くの椅子に座った。
「じゃあ消毒するよ。ちょっとしみるかも」
「う、うん」
なんだか緊張する。