ドクン、と心臓が鈍く高鳴る。

まるで心臓にもガラスを突かれてるようだ。



左袖を引っ張って、事実を覆うように左手をできるだけ隠した。


左腕に、温もりなんかない。

痛みなんか、微塵もない。



「おい、あれ」


「なんで……」



野次馬のざわつきが、いやに大きく聞こえるのはなぜだろう。


嫌な予感がした。



「なんで、左腕から血が出てないんだ?」



こんなに深く刺さっているのに。

ほんの少しあらわになっている肌からは、一滴たりとも、鮮血は流れていない。



感触はあるのに、なんの痛みも、感覚もない。


赤く腫れることも、青い痣になることもなく、依然として何ごともなかったように肌色を貫いている。




――これが、わたしの、秘密。




先生たちが危険だからと、集まってきた生徒を追い払おうとするが、なかなか生徒は言うことを聞こうとしない。


野次馬たちは、わたしの噂の真偽を確かめることに注目していた。



息を呑んだ。



周りの眼差しが全部、わたしに注がれる。


恐怖、悪意、困惑、吃驚。

ガラスよりも鋭利な感情が、グサグサ、わたしを傷つける。



頬の傷よりも、胸のほうがずっと痛い。



……見ないで。

わたしの秘密を、見ないでよ。


やめて。



「本当にバケモノみたいじゃん」



バケモノじゃない。


そう反論したくてもできない。



言われなくても、自分のことは自分が一番よくわかっているから。