咲間さんの手から、プリントが滑り落ちる。



「っ、」


小さなガラスの欠片が、右頬をかすった。

一滴の血が、頬を伝っていく。



ヒリヒリ、痛む。


皮膚に直接走る痛みに紛れて、左腕にも違和感を覚えた。




「今の音はなんですか!?」



職員室から、冬木先生を先頭に先生たちが飛び出してきた。


騒ぎを聞きつけて、近くにいた生徒も集まってきた。ざわざわとした雑音が、周囲に立ち込める。




わたしはうっすらと瞼を持ち上げて、廊下の惨状を目の当たりにする。



ガラスの破片によってチカチカ輝いた廊下に、プリントが数枚散らばっている。


足元にはポツンとサッカーボールが転がっていた。



「二人とも、大丈夫ですか?」



焦った様子で尋ねてきた冬木先生に、咲間さんは「は、はい」とぎこちなく返事をした。


おそらくまだ状況を整理できていないのだろう。



「矢崎さんは?……って、頬、怪我してるじゃない!」


「これくらい大丈……」



「や、矢崎さん、左腕!」



大丈夫。
そう応えようとしたが、咲間さんの動揺した声に遮られた。



左腕……?


自分の左腕に、ゆっくりと視線を落とす。



左腕を見た瞬間、

ああ、しまった。

と悟った。



左腕に深く刺さった、ガラスの破片。


そこの部分だけ制服が破れて、肌が垣間見える。



「他に傷は……」



咲間さんが案じながら、わたしの左手に触れる。


直後、すぐにその手は離された。



「……冷、たい」



真っ青な顔をしてこぼされたのは、紛れもない事実。