午前中の授業が終わり、昼休みになった。教室が騒がしくなる。
昼食を食べ終えたわたしは、職員室に向かっていた。
冬木先生に伝えておかないと。
来週の月曜日は午後から来ます、って。
そう伝えるだけで意味を汲んでくれるはずだ。
先生たちはみんな、知っている。
わたしの秘密も、噂の真相も。
転校する直前に、前もって話しておいたんだ。
事情を打ち明けたとき、お願いしたことがある。
『このことは、先生たち以外、誰にも言わないでください。クラスメイトにも、町の人にも』
本当は、先生たちにだって話したくなかった。
誰にも知られたくなかった。
未だに慣れない秘密を、以前とは違う自分自身を、どう思われるかわからない不安を、自分自身でさえちゃんと受け入れられていなかったから。
せっかくしたお願いは、無駄になっちゃったけど。
階段を下りて、廊下を歩いていく。
職員室の扉が開くのが見えた。
「あれは……」
咲間さんの姿を目にして、思わず足を止める。
学級委員の仕事だったのか、職員室から出てきた咲間さんは数枚のプリントを持っていた。
一時間目のとき目が合ってから、なんだか妙に気まずい……。
無意識に俯きかけた、が。
視界の隅に入り込んだものに、目を見開く。
「あれは……っ」
窓の外でうろたえてる数名の生徒。
それから、こちらのほうに飛んでくるサッカーボール。
サッカーボールは失速するどころか、窓を突き破る勢いで空を切り裂いている。
「危ない!」
「え……?」
咄嗟に、普段出したくても出せなかった大声が喉を揺らした。
咲間さんのほうに、必死に手を伸ばす。
ただただ混乱している咲間さんを、かばうように抱きしめた。
――パリンッ!!
サッカーボールが勢いよく窓を割り、ガラスの破片が廊下に飛び散る。
襲いかかる鋭い破片を恐れて、条件反射で目を瞑った。