ベンチと滑り台しかない、寂れた公園。
その真ん中に植えられた、大きな大きな桜の木を、その少年は一人でぼんやり眺めていた。
小……いや、中学生、かな。
誰だろう。
小学四年生のわたしには、あの少年が大人びて見えた。
つぼみの多い桜の木にそっと手を伸ばす仕草とか、憂いに塗れたようなやるせない横顔とか、濡れてるか濡れてないかわからないくらい澄んだ瞳に陰を作る長いまつ毛とか。
その全てが、幼いわたしには無いもののように思えて、わたしとあの少年は別世界にいるようだった。
公園の入口付近で、わたしは少年を黙って見つめていた。
いや、きっと、見惚れていたんだ。
桜よりもずっと綺麗で、儚くて。
今にも、消えてしまいそうだった。
なぜだろう。
少年は、何も言っていない。
何も、たった一言も発してはいないのに。
助けて、と。
寂しい、と。
泣きながら乞いてる気がしてならなかった。