……でも今日は、窓際の一番うしろの席は、空席。
皆瀬くんは、いない。
皆瀬くんは、たびたび欠席する。
一日休んでるときもあれば、途中から来たり帰ったりすることもある。
クラスメイトはサボりだなんだと、冗談半分にはやし立てていた。
本当にサボりなのかな。
それとも、具合が悪いのかな。
「では、咲間(サクマ)さん。強調を表す係り結びはなんですか?」
「はい。『ぞ、なむ、こそ』です」
近くの席の人が指名されて解答した。
ぼうっとしてた意識が正気に戻る。
いけないいけない。
授業中なんだから集中しなくちゃ。
切り替えて前を向くと、なぜか斜め前の席の咲間 依世(イヨ)さんと目がぶつかった。
どちらともなく、目をそらす。
気のせい?
いや、確かに目が合った。
咲間さんは、このクラスの学級委員。
長い栗色の髪を器用に編み込みながら左下で結っている。おしゃれで可愛らしい人。
責任感があり、しっかりしていて、クラスメイトによく頼りにされているところを見かける。
なんで咲間さんが、わたしを見ていたんだろう。
しかも、いつもの非難するような尖った視線じゃなかった。
何か、言いたそうな視線だった。
わたし、知らない間に何かしちゃった?
全く覚えがない。
わたしの噂が、咲間さんに何か迷惑をかけた、とか……?
だとしたら、どうしよう。
悶々と悪い方向にばかり考えてしまう。
結局、咲間さんがわたしを見ていた理由は見当つかなかった。
そればかり悩んでいたせいで、授業もずっと上の空であまり聞けなかった。