あれは、十二月二十四日。
悪夢のクリスマスイブに起きた、最悪な悲劇。


容赦もない苦痛が、瞼の裏に再生される。


お母さんとお父さんの声が、幾度となく、大きく響く。



やだ。

思い出したくない。



瞳に涙の膜が張り、かすんでいく視界を埋め尽くすたくさんの桜が、次第に憎い雪に変わっていく。



これは錯覚だ。


今は春。

大嫌いな冬じゃない。



「……っ、嫌!!」



震えた声をなんとか発したと同時に、ザアッと風が強く吹いた。


手にしていた一枚の花びらは、わたしの手元から離れて、風に乗り天高く舞っていく。



「はっ、はっ……」



胸元を抑えて、浅い呼吸を繰り返す。

左腕をグッ、と掴んだ。わざと爪を立てて、痛みをごまかす。




もしかしたら、わたしの時間は、去年のクリスマスイブで止まっているのかもしれない。


あの日から、一歩も前に進めていない。



かけがえのないものを失ってしまった苦しさに、今もなおもがいてる。








翌日。

今日もやはり、学校にわたしの居場所はない。



キーンコーンカーンコーン、とチャイムが規則的に鳴り渡る。
一時間目が始まった。


本日最初の授業は、冬木先生の古典だ。



授業中は比較的、気が楽。


クラスメイトのほとんどが授業に集中してるから、わたしに冷たい眼差しを浴びせたり噂したりすることがない。



でも……。



「係り結びが出てきたときは、文末の活用系が連体形か已然形になります」



冬木先生の説明に耳を澄ましつつ、横目に皆瀬くんの席を盗み見る。