一日は、長い。
独りだと、時間が経つのが遅く感じる。
放課後になっても、冷ややかな目も噂もわたしにつきまとう。
わたしは急いでカバンに荷物を詰め込んで、そそくさと教室を出て行った。
下駄箱で靴を履き替えて、身を縮こませながら早足で帰路をたどる。
夕日に照らされて、影が濃くなる。
それでもせいぜい灰色なのは、放課してすぐだからだろう。
この時間一緒に遊ぶ友達もいなければ、部活にも入っていない。
ひとりぼっちは、わたしにたっぷりの時間をくれるけれど、それ以外は全部奪われてしまう。
「はあ……」
独りきりの帰り道に、一つのため息が落ちた。
やっと、今日が終わる。
疲れたな。
特に大したことをしていないくせに、精神的ダメージがありすぎて、ねこそぎ体力を持っていかれる。
わたしに向けられたトゲや黒い感情、不審感や重圧が、日に日に募って重荷になっていく。
ソレを取り払うこともできず、跳ね返すこともできず。
辛い、と吐き出せる相手もいない。
「……淋しいよ」
思わず独り言を呟いてしまったわたしを励ますように、ひらり、と一枚の桜の花びらが風にそよがれてきた。
目の前でくるくる回りながら、足元に降りていく。
可愛らしい花びらを手に取って、道の脇にある小さな公園に顔を向けた。
この公園は、“あのときの少年”と出会った場所。
相変わらず人気のない寂れた公園だけれど、真ん中にある大きな桜の木は美しく咲き誇っていた。
遅咲きの桃色の桜に見惚れる。
そういえば、“あのときの少年”を見た前日に、桜の木があまりに美しかったから、桜の木を背景に家族みんなで写真を撮ったっけ。
また、みんなで写真を撮りたかった。
また、“あのときの少年”に会いたかった。
涙ぐみながら桜を眺めていると、
『莉子っ!!』
最後に聞いたお母さんとお父さんの必死な声が、耳の奥をつんざいた。