恐る恐る顔を上げ、窓際の一番うしろの席に眼をずらす。
今教室にやって来た彼がその席にちょうど座ったのが、前髪の隙間から捉えた。
彼のあとに教室に入ってきた男子が、席に移動するがてら、彼に挨拶する。
「はよ、皆瀬(ミナセ)」
「おはよ」
彼の名前は、皆瀬 環(タマキ)くん。
少し幼げな顔立ちとは裏腹に、性格はとても大人だ。いつも笑顔で、誰にでも優しいんだ。
大体一人で行動してるけれど、わたしとは違って、誰ともつるまずに一人でいることを好んでいるように思う。
わたしとは正反対。
皆瀬くんは、高校二年生になると同時に転校してきたわたしが、一番最初に名前を覚えた人。
一度も喋ったことはないけど、顔を見たときびっくりした。
気になって仕方がなかった。
だって、皆瀬くんは――。
凝視しすぎていたのか、不意に皆瀬くんと目が合ってしまった。
「っ!!」
やばい!
ハッとして、すぐ目をそらす。
どうしよう。
変に思われちゃったかな。
ぐるぐると不安が渦巻けば渦巻くほど、心拍数が上がっていく。
自然とまた下を向いている自分に気づいて、肩を落とした。
無機質なチャイムが鳴った。
朝のホームルームの合図だ。
教室の前のほうの扉から担任の冬木(フユキ)先生が入ってきた。
立っていたクラスメイトが、慌てて席に着く。
「おはようございます」
冬木先生の第一声に、みんな一斉に挨拶を返す。
冬木先生は、この学校で一番年上のおばあちゃん先生なのに、どの先生より声が若くて爽やかだ。みんなに敬われ、親しまれている。
わたしはぼんやりと冬木先生の話を聞きながら、もう一度俯きがちにこっそり皆瀬くんのほうへ視線を移した。