クラスメイトと仲良くなりたくても。
独りを卒業したくても。

臆病な心に勇気はなくて、たった一歩が踏み出せない。



ほとんど全員が敵のようなこの状況を、受け止めることでわたしには精一杯だ。


結局、受け止めきれていないけれど。



そうやって我慢しては逃げてを繰り返して、現状がいい方向に変わってほしいと願ってるくせに何もしない。


そんな情けないわたしを守るように、長い前髪は周りの視線を遮断してくれる。



この前髪は、この長さがちょうどいい。


切らずに、このまま。


暗そうに見えていたとしても、苦しさを少しは和らげることができるなら、長いままを選ぶ。



きっと、わたしは逃げてるんだ。

周りからも、自分からも。



狭くて薄暗い視界には、スカートを握りしめている拳が二つ。


小さな手だなぁ。

これじゃあ、何も、掴めやしない。


この手の中は、空っぽ。


何も……何もかも、なくなった。



ため息を吐きかけたとき。



ガラッ、とすぐ近くの扉が開かれた。


突然の音に反応して、つい肩を上げてしまう。



「遅刻ギリギリだな、皆瀬」


「遅刻しなかっただけいいだろ」


「ははっ。そういう問題じゃねぇよ」



わたしのうしろを通りながら、今教室に来た人がクラスの男子と笑い合う。


先ほどまでの張り詰めた空気が、穏やかにゆるんでいく。



誰が来たのか、声だけでわかった。