わたしの左手じゃ、涙の温度は測れない。でも、優しく拭うことはできるから。

どれだけ泣いてもいいよ。
わたしが全部すくってあげる。



「環くんのことを教えてくれてありがとう」



微笑む。

今まで向けてきたどの笑顔より、朗らかに。



「今までよりも、もっと、環くんを好きになった」



環くんが大事に飲み込んできた秘密は、重たくて苦くて。

簡単に「大丈夫だよ」と言うことはできないものだったかもしれない。


それでも、気持ちは変わらない。八年前、ここで会ったときから、ずっと。



「大好きだよ、環くん」



どんな環くんでも、愛おしくてたまらない。


だって環くんは、わたしにとって誰よりも、何よりも、大切で特別な人だから。



「明日とか未来とか考えるより、“今”環くんのそばにいたい」



明日はどうなるかわからない。

だったら、“今”を精一杯生きよう。意味も理由も、生き方も、探しながら。


そうやって、今日を頑張っていこうよ。



瞬間、ふわり、と環くんの震える腕がわたしを抱きしめた。

ほのかな匂いが、鼻をかすめる。落ち着く匂いだ。これは環くんの匂いだろうか。



「環くん?」


「俺も、」



耳のすぐそばで、ささやかれる。



「俺も、莉子ちゃんのことが好きだよ」



え……?
今、なんて?