ねぇ、環くん。

わたしの手を取って。


その暗闇を、一緒に抜け出そうよ。ひとりがダメなら、ふたりで。ふたり分の勇気なら、きっとなんでもできる。



「未来とか、希望とか、そんなの関係ない!」


「り、こちゃ、」


「今泣きたいなら、今、泣いていいんだよ」



そう教えてくれたのは、環くんでしょ?


「環くん」


環くんの顔が、ぐにゃり、歪んだ。ほのかに浮かぶ切なさと心地よさがひしめき、共鳴した途端、不格好に軋む。


環くんにもらった、かけがえのない言葉たち。そっくりそのまま、ラッピング代わりにひだまり色の想いを添えて紡ごう。今度は、わたしから環くんへ。



――『怖がらなくていい』

「怖がらなくていいの」


――『泣いてもいいんだよ』

「泣いてもいいんだよ」



環くんの頬に、そっと左手を伸ばした。そこにためらいはない。



「環くんは、独りじゃないよ」


わたしが、そばにいるよ。ちゃんと、ここにいる。



左手が湿っていく。何かが通った感触はあれど、濡れた感覚はない。けれど、なんとなく、気づいていた。


目のふちから、涙が落ちてはあふれ、落ちてはあふれを繰り返し、絶え間なく下まつ毛の上を滑り落ちていく。散ったとしても、また花を咲かせる桜みたいに。


この桜の木は、何年もの間、生き続けているのだろうか。



「莉子ちゃん、ごめん。迷惑だって言って、遠ざけてごめん」



環くんが嗚咽まじりに謝るから、手のひらを少しずらして軽く撫でた。


もう、いいんだよ。



「謝らないで。環くん、言ってくれたじゃん。『泣かせたくないから、ダメ』って。あれは、環くんの優しさでしょ?」



ポロポロ。滴る涙は綺麗なのに、すぐ消える。本当に桜にそっくりだ。