そういえば、わたしが告白する直前に、環くんが漏らしていた。
『……莉子ちゃん、変わったね』
今思えば、あのときからだ。
環くんとの距離が拡がっていったのは。
「環くんが『泣いてもいいんだよ』って言ってくれたから、わたしは素直に泣けて、勇気を出せたんだよ」
こうやって自分の足で前進できているのは、環くんがきっかけをくれたおかげ。環くんがいなかったら、わたしはきっと今も独りぼっちで耐え忍んでいただろう。
環くんがいたから、わたし、変われたんだよ。
光の当たる場所へ導いてくれた環くんに、今度はわたしが勇気を贈りたい。依世ちゃんの作ってくれたクッキーより甘くなくても、わたしにはわたしなりの届け方で。
「環くんも、泣いてもいいんだよ!」
ふとしたとき、涙は流れていないのに、助けてと泣いているように見えた。日差しの当たり具合や表情の変化で片付けることはできなかった。だって一度や二度じゃない。けれど、一度たりとも本物の涙はこぼれなかった。
それは、環くんが、ずっとずっと泣きたかったからなんじゃないのかな。
「俺は、泣けない。……泣いたら、ダメだ」
ほら。
そんなこと言うくせに、泣きそうになってる。涙を、飲み込んでる。
「これから先、死ぬときさえもきっと独りなのに、いちいち泣いてなんかいられないよ」
「わたしには『泣いてもいいんだよ』って言ってくれたじゃん!」
「莉子ちゃんは独りじゃない。俺と違って、未来に希望がある。だから言ったんだ」
環くんは、わたしを助けてくれた。だからわたしも助けたいのに。
なんで独りに慣れようとしているの?
わたし、知ってるよ。孤独に溺れる、大嫌いな息苦しさを。
嫌だよ、やめてよ。自ら溺れに行かないで。独りを望まないで。そんなものに慣れないでよ。
ここにわたしがいるのに。わたしのこと、勝手になかったことにして忘れようとしないでよ。
「泣いちゃいけない人なんていない!」
叫びと化した大声が、二人きりの公園によく反響した。天にまで到達しそうだ。心なしか、群青を汚す雲が揺れた気がした。