環くんが胸元をシャツの上からぐっと握る。それだけの仕草がなぜこうも痛々しく感じてしまうのか。握ったところが、ちょうど胸の真ん中、心臓のある辺りだからだろうか。

助けて、と。
SOS信号が聴こえてくるのは、八年前と変わらず、今も。



「いつも一人で行動してたのも、それが理由?」


「ああ。明日死ぬかも、百年後まで生きるかもわからないのに、関わりすぎたら、再会したときに俺の変わらない姿を見て怖がらせてしまうだろ?」



自分だって苦しんでるくせに、わたしを助けてくれたときみたいに相手を優先してる。バカなくらい、優しい人。



「それじゃあ、どうして」



衝動的に、爪先分、環くんに詰め寄った。


どうしてなの。


「どうして、わたしに優しくしてくれたの?」


特別なんじゃないかと、勘違いしちゃうほどに。


未熟な鼓動に、焦がれた。ひとたび高らかに飛んだ音は、今度は奥深くに沈みながら鈍くなる。



「ほっとけなかったんだ」


「え?」


「莉子ちゃんを初めて見たとき、俺と同じで、何か背負っている気がしたから」



わたしは、“あのときの少年”と環くんを。
環くんは、わたしと自分をリンクさせていた。

わたしたちは、似た者同士だった。


抱えているものは違えど、お互いに普通ではない”秘密”を隠していた。自分自身が何よりその”秘密”を受け入れられていなかった。



「莉子ちゃんに好きだって言われたとき、本当に嬉しかった。だけど、それと同時に『しまった』って思った。一緒に逃げ出したり、名前呼びしたりして……自分から関わりすぎた、って」


「だから、友達に戻らずに、わたしを遠ざけたの?」


「それもあるけど……」



けど、何?



「たぶん、嫉妬してたんだと思う」


「嫉妬?わたしに?」


「うらやましかったんだ。前へ前へ進んでいく莉子ちゃんが。俺には、前に進む勇気なんかなかった」