「わたしね、八年前にこの公園で、ある少年と出会ったの」


「え?急に何を……」


「その少年を見たのは、たったの一回。こんな風に目が合っただけで、話すらしてない。それでも、あれがわたしの初恋だった」



なんの前置きもなく語りだしたわたしに、環くんは困惑を隠しきれていない。



「その少年は、どこからどう見てもわたしより年上で、とても大人びていた。だけど不思議と悲しそうに見えた」



変な奴だって思われてもいいから、お願い、聞いていて。
わたしなりに考えた、つながりを。



「“あのときの少年”が、なぜか環くんとそっくりで。初めて環くんを見たとき、びっくりした」



少しずつ、環くんに近づいていく。

一歩一歩が小さくて、距離を詰めるのに時間がかかってしまった。



「そして、思ったの」



ようやく環くんのそばまで歩み寄れたときには、手足だけでなく下唇まで震え出していた。だが、視線だけはずっと真っ直ぐだった。


詮索してるみたいで、ごめん。

それでも、伝えさせて。これが、わたしの答え。



「環くんが、“あのときの少年”なんじゃないかって」



“あのときの少年”は年上で、環くんはクラスメイト。

普通に考えたら、間違っている。


でも、そんな気がしてならないのは、二人がわたしの中でリンクしすぎているからに過ぎない。



沈黙が、漂う。

心拍数ばかりが上昇していき、もう少ししたら呼吸困難に陥りそう。



違ってたら、違ってたでいいの。わたしは環くんのことが知りたいだけなんだ。



「……もし、」


音程のブレた呟きが、沈黙を切った。足元に落っこちたソレに、反射的に顔を上げる。

今の、環くんの声だよね?