あのね、環くん。
わたし、環くんに伝えたいことが、たくさんあるよ。たぶん環くんが困っちゃうくらい。
逃げては、歯がゆさに悔いて。
ためらっては、弱さに苦しんで。
嘆いては、涙に光をくれて。
独りじゃないことを、確かめられた。
環くんがまたわたしを拒んでも、わたしはあきらめない。
距離なんて関係ない。遠くても、近くても、手を伸ばすよ。届くまで、何度でも。環くんを照らせるように。
まだよくわかっていないけれど、“今”を精一杯生きるって、こういうことなんじゃないのかな。
わたしは、そう信じたい。
お世辞にも子どもの遊び場として適しているとは言いづらい、ベンチと滑り台しかない、古びた公園。その真ん中には、一際目立つ桜の木がどんと大きく構えている。
つい最近まで華やかに咲き誇っていた、薄い花びらはほとんど散ってしまい、ずいぶんと物寂しくなった。
裸になった桜の木の幹に、触れた、手。
環くんだ。
環くんの、手だ。
環くんは涙を我慢するように、残りわずかとなった桜の色を見上げていた。
やっぱり、ここにいたんだね。
ポケットの中の写真に力をもらって、公園に一歩侵入した。じゃり、と砂が滑る。
「環くん!」
環くんがこちらを向く。目がかち合うと、だんだんと唇を引き結んでいく。
「ど、どうして莉子ちゃんがここに……?」
驚く環くんの疑問には、答えない。
答えなくても、すぐわかるだろうから。