冷めないうちに朝食を食べ終えたわたしは、玄関で靴を履く。
学校に、外に、行きたくないな。
ずっと家にいたいな。
吐き出してしまいたいわがままは、決しておばあちゃんとおじいちゃんには教えられない。
余計な心配をさせたくない。
ただでさえ二人には甘えているんだから。
わたしは一回深呼吸をして、カバン片手に扉を開けた。
「行ってきます」
二人に明るくそう言って、扉を閉める。
空が異様に遠く感じた。
二週間前まで住んでいた都会とは全く違う、緑豊かな情景が広がる。
高層ビルはもちろん、コンビニすら徒歩圏内にはない。電車どころかバスさえも本数は多くはない。一時間に一本あればいいほうだ。まさにド田舎。
「ほら、あの子よ」
「あの噂、本当なのかしら」
またか……。
ゴミを出しに外に出た近所のおばさんたちが、通学路を歩いているわたしをチラチラ窺いながら、わたしに聞こえるか聞こえないかくらいの微妙な声量で噂話をしてる。
いつもこう。
わたしが外を歩くたび、白い目で見られる。
この町の住人はみんな顔見知りで仲が良く、ひとつの大きな家族のよう。
だからだろうか。こんな風に、一度どこからか噂が流れれば、一日も経たないうちに町全体に広まってしまう。
外部から来たわたしは、その輪の中に入っていけない。
むしろ噂の格好の餌食だ。
あくまで部外者。よそから来た、異端児。そう見られていることに、わたしが気づいていないとでも思っているのだろうか。