震えた膝まで隠れるスカートの生地は分厚い。けれど、ポケットに左手を当てれば、そこに入れた八年前の写真の存在を感じ取れる。左の手のひらでだって、わかるんだ。
またしても、逃げようとしてる。
おばあちゃんとおじいちゃんにもアドバイスをもらって、葉上先生には頑張り方と生き方を考えるきっかけをもらって。
もう逃げない、逃げたくないって、あれほど後悔したのに、また。情けないな、わたし。
「あっ、そうだ!あのね!」
項垂れるわたしに、とってつけたように弾んだ声音が降る。
何かを思い出した依世ちゃんは、自分のカバンから何かを取り出した。その何かを、わたしに差し出す。
「はい、これ!」
「これって……クッキー?」
可愛くラッピングされた透明な袋。キラリキラリと光るラメの奥には、綺麗な焼き色のついたクッキーがいくつか入っていた。
「これを、わたしに?」
「昨日作ったの。莉子にどうしてもあげたくて」
「なんで?わたし、別に今日誕生日とかじゃないよ?」
依世ちゃんからのプレゼントはすごく、ものすごく嬉しいけど、理由に見当がつかない。
わざわざクッキーを作って渡してくれたのは、どうして?
「昨日の体育のとき、かばって助けてくれたでしょ?そのお礼だよ」
「そ、そんな、大したことしてないよ!」
当たり前のことをしただけだ。友達を助けるのは、特別なことじゃないでしょう?少なくともわたしは、そうだよ。依世ちゃんだって、何度もわたしを助けてくれたじゃない。
依世ちゃんの眼差しが尖っていく。
あ、気分悪くしちゃった……?
「あたしのプレゼントを受け取れないっていうの?」
「えっ、いや、そういうわけじゃ……!」
「なーんてね」
形のいい唇が、弧を描く。しかめていた表情は急激に和らいでいった。
え?
依世ちゃん?
「莉子が謙遜すると思って、ぜーったいに受け取らざるを得ない、もう一つの意味をそのクッキーに込めておきました」
もう一つの意味って?