手にしたままだった八年前の写真を、ずっと持っていたかった。
理由なんかない。
ただ、なんとなく、手放しちゃいけない感じがしたんだ。
「ありがとう。行ってきます」と告げ、八年前の写真をスカートのポケットの中にしまった。
カバンを持って家を飛び出し、走って学校へ急ぐ。
推測してしまった。思い浮かんでしまった。ありえないであろう“あのときの少年”と環くんの関係性が、どうしてこんなにも頭から離れてはくれないんだろう。
信ぴょう性は薄いし、証拠も何もない。全然違うかもしれない。わたしの妄想でしかないのかもしれない。
でも。
でもっ。
泣いていないのに泣いているように見える、“あのときの少年”と環くんの横顔に想いを馳せるたび、どうしようもなく思ってしまう。
もしかしたら、って。
タンッ――最後の一歩で、ローファーの底を昇降口の正面につけた。
想像してたよりも早く学校に到着した。普段より疲れているのは、意図せず早歩きで来てしまったからだ。
まだ昼休みらしく、校舎全体が騒がしい。賑やかな空気感に沿うように、呼吸のリズムを整える。
わたしは靴を履き替え、教室に移動した。柔らかい上履きのほうがよっぽど歩きやすい。
「あ、莉子!病院どうだった?」
教室に入って早々、依世ちゃんが待っていたかのように、わたしに駆け寄ってきた。
「問題なかったよ」
「そっか、よかったー」
自分の席にカバンを置いたわたしに、クラスの女子が挨拶をしてくれた。わたしもたどたどしく挨拶を返す。
おはよう。おは……あ、今はお昼だからこんにちはか。あ、そうだね、こ、こんにちは。
不器用な挨拶だなあ。挨拶にここまで緊張したのはいつ振りだっけ。
昨日打ち解けて、関係が進展した結果だ。この緊張も、なんだかくすぐって、心地いい。
環くんにも挨拶をしたいな。
窓際の一番うしろの、環くんの席。そこに、環くんはいなかった。
教室を見渡しても、環くんの姿はどこにもない。