なんでこんなところに写ってるのだろう。単なる偶然だろうか。
……本当に?
甘美な驚きが、胸に押し寄せる。コントロールしようにも、どんどんどんどん感情を引っ掻き回していく。八年前で止まっていたはずの初恋ごと、否応なく引き戻される。
桜だ。あの、綺麗な桜だ。
今、わたしは確実に、淡い薄紅に意識を乗っ取られている。
そのそばには、“あのときの少年”の姿。あやふやな記憶じゃない。鮮明にここに在る。
相も変わらず、質の悪い魔法だ、これは。
やっぱり、似てる。
“あのときの少年”と環くん。
ううん、似てるなんてもんじゃない。静やかな面影はもちろん、幼い顔立ちも、色素の薄い髪も、どこかを仰ぐ瞳も、大人びた雰囲気さえも、全く同じ。
記憶だけじゃ、自信がなくてはっきり判断できなかった。
だけど、この写真を見た今。
“あのときの少年”と環くんが、わたしの中で、ぴったり重なった。
「どういうこと……?」
他人の空似。そう片付けられるレベルじゃない。環くんと関係がないとは考えられない。
環くんにお兄さんはいなかったはず。じゃあ他の血縁関係者だろうか。それとも。
それとも――……
不意に。
脳裏を巡っていた映像が、逆再生されていった。その映像は、先ほど環くんを病院で見かけた場面で、カチリと一時停止される。
まさか。
“あのときの少年”って。
「莉子ちゃん」
おばあちゃんに声をかけられ、我に返る。ぐちゃぐちゃにこんがらがった思考回路はちょうど整理されたものの、混乱の余韻はたっぷり充満していた。
「な、なに?」
「そろそろ学校に行かなくていいのかい?」
あ、そうだ、学校!
焦って時計に視線を移す。時刻はすでに昼休みも後半に差し掛かった時間帯だった。
や、やばい!もう行かなくちゃ!
急いでカバンを取りに居間を出る。と、その前に、引き戸の前で立ち止まった。
「ねぇ、おばあちゃん」
「ん?」
「この写真、もらってもいい?」
おばあちゃんは悩むことなく、笑顔で「いいよ」と返した。