「莉子ちゃん」
「なに?おばあちゃん」
「今、好きな人でもいるのかい?」
イマ、スキナヒトデモイルノカイ。
脳が理解するまで、数秒かかった。カタカナで読み取られた言葉を正常に変換する。
お味噌汁を飲んでいたわたしは、つい噴き出しそうになって咳き込んだ。慌てて、お茶を喉に流す。しかしお茶はあっつあつで、舌を火傷してしまった。
い、いひゃい。
「……と、突然、どうしたの?」
「ふふっ。莉子ちゃんがそういう表情をしておったから、ちょっと気になってね」
そういう表情って、どんな表情!?
さっき葉上先生にもバレたし、わたしってわかりやすいの?
自分じゃ鏡がない限り、自分の顔を見れないからわかんないや。でも、たぶん、わかりやすいんだろうな。もしくはこの世にはエスパーが多く存在しているのか。できることなら後者にかけたい。
「わたしたちにもこんなころがありましたね、おじいさん」
「ああ、懐かしいな」
おばあちゃんとおじいちゃんも、そしてお母さんとお父さんも、わたしみたいに恋をしてきたんだ。「好き」を募らせてきたから、今、わたしはここにいるんだ。
そんな当たり前は、本当は奇跡で。
何年経っても、積み重なっていく。
きっと、百年後も。
「二人はお互いのどんなところに惹かれたの?」
火傷を気にしつつ、素朴な疑問を投げかけてみる。
二人はどのような恋をして、結ばれたんだろう。どんなふうに生きてきたんだろう。
わたしみたいに余計なことまで悩んだのかな。胸が痛くなるくらい苦しんだのかな。
「そうだねぇ……」
おばあちゃんはお茶をすすって、ほっと肩を下ろす。背中をゆるく丸めると、おじいちゃんのほうを向いた。
「わたしは、おじいさんの太陽のような笑顔に惹かれたよ」
いたずらに目尻を細めたおばあちゃんは、とても可愛らしかった。ふふふ、とこぼれた笑みには、反すうさせた昔話が含まれているんだろうな。
「おじいさんはこう見えても、昔はいつも元気でね……」
「茜(アカネ)や」
話の途中で、おじいちゃんが遮った。