「莉子ちゃん、まだ前髪切らないのかい?」


「う、うん」



おばあちゃんの心配そうな顔に、胸が締め付けられた。

温かいから、優しいから……大好きだから余計に。



「邪魔じゃないのかい?」


「うん、大丈夫」



……ウソ。


目元が隠れるくらい長い前髪は、正直言うと、いちいち目にかかって邪魔くさい。



でも、これでいい。

これがいい。


長いほうが落ち着くんだ。




「いただきます」


「どうぞ、召し上がれ」



利き手である左手で、箸を持つ。


おばあちゃんが作ってくれた出来立てのご飯を、一口食べて味わった。その次に、湯気の立つお味噌汁を飲んだ。



味は薄すぎず、濃すぎず。
今日もおいしい。とっても、おいしい。



心臓の中心に、じんわりと熱が帯びていく。



脳裏に、かつての日常が過る。


お母さんと、お父さんと、わたし。

三人で食卓を囲んで、慌ただしい朝を送る。



どこにでもある、なんの変哲もない時間。



あの時間は、もう、戻っては来ない。


そんなこと、知ってるのに。


あの時間を、もっと惜しみ、大事にしていれば。



そう後悔を繰り返して、痛みをこらえてる。

こうするのは何度目になるだろう。




また一口、先ほどよりも多めにご飯を頬張った。間隔を開けずに、目玉焼きの半熟部分を丁寧に分けて、まだご飯でいっぱいの口の中に放り込んだ。



どうしてかな。

今、ものすごく、泣きたい気分だ。