八年前、春。
麗らかな陽気たっぷりの空気を、肺いっぱいに吸い込んだ。
春休みを利用して、父方の祖父母の家に家族で遊びに来ているが、私の住んでいるところとは情景も空気の味も、何もかも違う。
周りを囲むのどかな景色は、ビルやらコンクリートやら発展しすぎた都会で見慣れている価値観を大きく揺さぶる。
新鮮さに駆られるがまま、両親に一言告げて一人で田舎町を散歩し始めた。
趣のある一軒家は、綺麗というより味があって、古めかしいのに懐かしい。小学校、中学校、高校のどれもが心なしか小さくて、狭い印象を覚えた。普段なら目にもつかない、道の端っこに咲く野花は、とても可愛らしくて、なぜか心の奥があったかくなる。
いつの間にか、青かったはずの空にうっすらと茜色が差し込んでいた。
ちょうど真ん中で混ざり合った二色は、淡く、暗く、侵食の面積を広めていく。
散歩に夢中になりすぎて、時間を忘れていた。
慌てて散歩を中断し、家に帰る途中に小さな公園があった。
何気なく横目に一瞥しながら横切ろうとしたが、人影を発見して反射的に足を止めた。
少年が、いる。