ラジオの前で家族全員で身動きもせず、聴覚に全神経を集中させていた。10分間。じっと、誰も一言も発さず、呼吸の音すら出すまいと。

「まだまだ駆け出しのパーソナリティの卵ですが、温かく見守っていただけたら嬉しいです」

 そんなヒロさんの声で、家族全員が呪縛から解けたように大きく息を吐いた。ついに、電波に私の声が乗ったのだ。

 「お赤飯炊いたから!」とお母さんはご馳走を作り、「いい酒でも飲むか」とお父さんも上機嫌。なんだかそれだけでもう十分な気さえした。
 ユージさんは聞いてくれただろうか。私の初めての声の仕事。リスナーさん達の心には届いただろうか。
 あの夜ユージさんが番組で話した体験談は、不思議なほどあの日の私と状況が似ていた。しかし彼がそれを知るはずもないのだから偶然だったのだろう。それでも私はまた、ユージさんに救われたのだ。

 カフェ子からおめでとうとメッセージが来ていた。

『聞いたよ!ユージさんに負けないくらい、素敵なDJタピーだった!』

 そんなメッセージに素直に嬉しくなる。今日はカフェ子の誕生日だ。一緒に過ごそうと言ったら、初のオンエアの日なんだからいつも応援してくれる家族と聞きなさいと言ってくれた親友はわたしの宝物だ。それにカフェ子は、今日は地元の友達がパーティをしてくれるから、とそう言っていた。わたしからのお祝いは、また明日サプライズですることになっている。

『ありがとう!カフェ子も、改めてお誕生日おめでとう!素敵な一年にしていこうね。今年も一緒にたくさん笑おうね』

 なかなか既読がつかなかった。実はその日はパーティなんかなくて、彼女はコンビニの小さなショートケーキを買って寂しくひとりで過ごそうとしていたということ。とある人からオレンジ色の花束をもらってそのケーキは2人で食べたことを私が聞いたのは、その翌日のことだった。