ちょっとお洒落なカフェをリサーチしておいた。

 一世一代の大切な場だ。いわゆる洒落た店というのは彼女が働いているカフェくらいしか知らない。だからと言って、彼女の勤め先に誘い出すというのもなんだと思って会社の同僚に相談したら、この辺りがいいんじゃないかとおすすめの店をいくつか送ってきてくれた。妹がいるからこういうのは任せろと言ってくれた友人に感謝しないと。
 勢いだけで誘ってしまって、さらに自分の正体も明かしてしまった。勢いって怖い。だけど時間は巻き戻せないし、送ったものは取り消せない。彼女から『分かりました』という短いメッセージが届いて俺は、慌てて準備に取り掛かった。Tシャツにパーカー、デニムで大丈夫かな。いつも会うときにはスーツ姿だから、なんだか変に緊張してしまう。靴は一番気に入っているものを取り出した。

「すみません!遅れちゃいましたか!?」

 待ち合わせ時間すこし前。待ち合わせ場所に選んだのは、彼女のバイト先の最寄駅。
 かっ、かわいい……!!カフェでの制服姿しか見ていないから、当然だけど私服を見るのは初めてだ。いつも高い位置で結ばれているポニーテールは、今日はゆるく巻かれて肩下で揺れている。カジュアルだけど、女の子らしさもあるスタイルで、メイクもいつもとは少し違う感じがした。女の子の流行などには疎い俺だから、うまく説明は出来ない。だけどかわいい。とにかくかわいい。思わずぼうっと見惚れていると、あのー、と彼女の戸惑うような声が聞こえた。

「あ、あんまり、その……見ないでもらってもいいですか?」

 顔を真っ赤にして俯いている姿を見て、はっと我に返る。女性をまじまじと見るってのは失礼にあたるものだ。

「ご、ごめん!ちょっと、いつもと雰囲気が違ったからつい……!」

 慌ててしまい、語尾で噛んでしまう。焦っているってバレバレだ。ああ本当にかっこ悪い。すると、そんな俺に彼女がくすっと笑うのが見えた。やっと見れたいつもの笑顔に、カチカチに固まっていた気持ちがほぐれていく。どんな服を着て、どんな髪型をしていても、笑えば俺の知っているカフェ子さんだった。