馨の家は、かつて海軍にいたという光代の父が戦後すぐ買った家で、昔ながらの数寄屋造に洋風の応接間が組み合わせられてある、いかにもスマートネスをモットーとした海軍士官の住居らしい外観である。

 アナスタシアは馨の家がそうした家屋であることは知らなかったようで、

「Wow」

 と声をあげた。

「取り敢えず、上がり」

 馨に促されるまま入ると、

「オカン、アナスタシアさん来たでぇ」

 このとき、母親の光代もアナスタシアを見てびっくりしたようであった。

 馨はアナスタシアの更年期シャツの件を話してから、

「なんか代わりになるもんあらへんかなぁ」

「古着なら、何かあるんじゃないかな」

 そうやって光代が探し出したのは、馨の大学時代の学園祭でいっぺん着ただけのTシャツであった。

 グレーの地に臙脂色で、馨の母校の大学のロゴの入ったものである。

「これ、ほとんど着てへんから、えぇんとちゃう?」

 アナスタシアは気に入ったらしく手渡されると、その場で更年期シャツを脱ぎ始めたので、流石に馨が慌てて眼を覆い隠した。

 アロハシャツは、このとき戻って来た。