だが。
問題はアナスタシアのTシャツであろう。
「いや、更年期て…そらぁなんぼ何でもあかんやろ」
さすがに京都弁は分からないのかアナスタシアは首を傾げたが、
「しゃーないなぁ」
咄嗟に馨はみずからが羽織っていた、牡丹に揚羽蝶があしらわれたアロハシャツをアナスタシアに着せ掛けてから、ポケットのスマートフォンの翻訳機能を使って、
「そのTシャツだと恥ずかしいから」
とだけ伝えた。
アナスタシアもその段階で少し気付いたものはあったらしく、
「Sorry」
とだけ言って顔を赤らめた。
「ひとまず、荷物だけでも置きに行こか」
アナスタシアは小さく、
「Yes」
と頷いた。
京急線で金沢文庫で各駅停車に乗り換えて、逸見まで乗って、駅前の坂を登った先にある、和洋折衷のような普請の家が、馨の家である。