ところが。
「カオルーっ!」
とキャリーケースを輓いて駆け寄って来たのは、写真のままの容貌をした、まさに亜麻色の髪の白人の女であった。
アナスタシアは馨に抱きつくなり、
「あなたに、会いたかったです」
という欧米式のハグの挨拶をしてきた。
しかしここは横浜駅である。
まるで、遠距離恋愛のカップルの再会のシーンかと思われてしまうほど、周りからの視線が集中している。
少し早めに着いていたらしい。
さすがにドレスではなかったが、目立つようにと気を遣ったものか、なぜか「更年期」と書かれたオレンジ色のTシャツを着ている。
「…あ、アナスタシアさん?」
彼女、つまりアナスタシアは無言で首肯いた。
「You’re very handsome 」
出し抜けに言われて驚いたが「You’re very handsome」は一応褒め言葉になるので、
「ありがとさん」
とだけ、馨は額面通りの意味で会釈をした。