ところで。
馨はアナスタシアの顔をまるで覚えてなかったので、メッセンジャーで写真だけは、前にやり取りで交換してあったが、改めて写真を見返すと、
(こないなべっぴんさんやなんて気づかんかったで)
馨は正直、アナスタシアの風貌に思わず息を呑んだ。
(どこのモデルさんやねんな)
というほど、ブルーがかったグレーの瞳が印象深い、笑顔の眩しい金髪で、何かのパーティーのときと思しきドレス姿の写真だったのであるが、胸元が開いたコバルトブルーのドレスのよく似合う美女の写真であった。
他方で。
馨はというと目鼻立ちのくっきりした顔立ちで、今どきの顎の細いイケメンというよりは、少々古風だが凛々しい雰囲気の、ノーブルで整った相貌である。
アナスタシアがイメージする日本人とは少し違うかも分からない。
彼女の美貌は、逆に馨を警戒させた。
「これは何かの罠かも知らん」
無理もない。
今どきは何でもかんでも詐欺の全盛期で、もしかすると新手の詐欺か何かかも知れないのである。
そこで。
いざというときには、駅前の交番へすぐさま駆け込めるように、道順だけ予習して、朝の陽射しの眩しい駅前から、バスの乗降場まで歩いた。