翌日は雨が降ったり止んだりの冴えない曇天で、

「濡れるのの嫌やからバスで行くわぁ」

 と、帰郷してから何となく習い始めた、手芸の教室まで出かけた。

 男が手芸を習うのも不思議だが、前に気に入ったリュックが見つからなかったときに、

「せや、自分で縫ったらえぇねや」

 という思いつきで習い始めたに過ぎない。

 そうして真っ白いリュックを手始めに、いくつか作品も作れるようになっている。

 その日も。

 そのお気に入りの白いリュックサックに、コミケで見つけて買った初音ミクのぬいぐるみをぶら下げてあった。

 話を戻す。

 待ち合わせの当日。

 昨夜からの驟雨は止んだ。

 横須賀という街はときに、南と北で空模様が異なるときがある。

 例えば秋の頃なんぞは、追浜で時雨れていても、浦賀では晴れている日すらあった。

 折しも。

 この日は、横浜の開港祭の花火大会の日である。

「えらい蒸すなあ」

 逸見(へみ)の坂を下って、(なぎさ)橋から横須賀線に乗って、横浜駅に着いたときには、まだ早朝だというのに、入道雲が立ち昇り始めている。

「こらぁまた夕立あたりあるかも知らんな」

 馨は少し浮かない表情をした。