幸い宿が取れたので、八月の末に馨はナスチャと二人で、東京駅から郡上八幡行の夜行バスで向かった。

 ナスチャはその夜行バスの中で、初めて来日したときにはじめて夜行バスに乗って、京都まで祇園祭の山鉾巡行を見物に行ったときのことを教えてくれたのだが、

「京都の祇園のCarnivalのとき、日本人に助けてもらった」

 聞けば、宵山の夜にしつこいナンパ野郎に絡まれていたときに、傘を手にした男の人に助けてもらったらしい。

「その時、その人…これ落とした」

 ナスチャが取り出したのは、初音ミクのラバーストラップである。

「…それ、ミクさんの」

 馨には、見覚えがあった。